自選20首

           野沢菜を抜く手休めて見晴るかす浅間は吹雪くか白く霞めり

         大根葉の散らばる畑に陽の射して霜輝かせつつ峡は覚めゆく

         山峡は薄墨色に暮れゆきて雪野の果てに町の灯が見ゆ

         哀しみに鳴くこともあらむ小綬鶏の鋭き声は雪野越えゆく

         さらさらと霧氷を零す落葉松に啄木鳥の赤き頭が動く

         雪明りに遊びし獣を眠らせて森はうらうら柔き陽を浴ぶ

         静かなる午後を一陣の風立ちて雪積む竹を起こしてゆきぬ

         ちろちろと雪解の川の流れ出すこの夜木の芽も動きゐるらむ

         ひそやかな春の雨音聞く夜は久しく便りの無き子を思ふ

         この春はかたくり誰と見に行かむあの谷の径誰と歩まむ


         腹這ひてかたくりを撮る男あれば写るはずなき声ひそめ過ぐ

         四十雀が郵便受けを覗きゐる春の午後なり手紙書かむか

         庭巡る流れの音の安らけしこは胎内で聞きし音やも

         アカシヤの香にむせ返る道を来て切なきまでに旅に焦がるる

         緑色のしずくに濡れて鳴きゐむか郭公の棲む森に雨降る

         新緑の山路に忙しく啄ばめる黄鶺鴒なかなか道を譲らず

         粉雪が舞ってをります信州より届きしはがきに始まりし恋

         終電の改札口を掛け戻り君のコートに包まれし街

         ひざまづき五輪選手の裾上げの針刺してゆく母の思ひに

         金メダルを外して胸に掛けくれぬ母の世代のボランティア我に

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