文箱2
介護の日々
臥す義母にむきやる桃のみづみづし指のあひよりしずくしたたる
麻痺の義母を抱き湯船に沈むとき清められゆくわが身とぞ思ふ
散り敷ける桜落ち葉を掃き寄せて移動入浴の車待ちをり
臥す義母に見せむと手折る野苺の熟れ過ぎたるがほろほろと落つ
遠き日のミルクの温度計るさまに洗浄液を手首に垂らす
流れ出づる尿見えしとき導尿管替へる緊張のやうやくほぐる
尿管に洗浄液を入れむとし逆流すればわが顔に飛ぶ
臥す義母の腹部に触れて宿便を揉みほぐしをり薬効かねば
膀洗を終へれば次は隣室の叔母の便器を片付けにゆく
車椅子二台連ねてデイケアに送り昼餉は餅焼くのみに
星野富弘さんと同じ頚椎損傷の怪我で寝たきりになった義母を
在宅で6年介護しました。そのときの日々のスケッチです。
同居していた夫の叔母もリューマチでほとんど寝たきりでした。
義母逝く
わが腕に義母の亡骸抱きしめて戻る夜道に桜舞ひ散る
わが腕にずしりと重く温かき義母よ命の無しと思へず
抱き帰る義母の温みの伝ひ来て全て許し合ふ時は来たりぬ
宿命の限りを生きて骨壷の半ばに満たぬ義母となりたり
四肢麻痺の義母の命の細き火をくべつ起こしつ六年を経ぬ
おほひなる挑戦なりし六年の介護終わりて心静けし
六年の介護に得しもの多くして失ひたるに思ひ至らず
桜祭りの夜病院で息を引き取った義母を
車で抱いて帰りました。夜桜が散る公園の
横を通るとき夫がスピードを緩め最後の桜を
見せてやりました。
短歌目次