尾 瀬

 目の限り白きわたすげうちなびき初めて来たる尾瀬はやさしき

 青き山を逆さに映し澄む地とう遥かなる時を秘めて静もる

 尾瀬ヶ原を囲む山々緑なしいづこの谷かほととぎす鳴く

 木道に触れむばかりに伸びきたる日光きすげは蕾をかかぐ

 新緑を映す地とうの傍らに姫しゃくなげは薄紅に咲く

 山小屋のストーブ燃ゆる談話室西の東の訛りやさしき

 友ははや寝息たている消灯の九時ひそやかな尾瀬の雨聴く

 せきれいの囀りに山の目覚め良し今日の歩きは十八キロぞ

 苔伝ふ清水をすくひ飲む山路背中の汗が風に冷えゆく

 新緑の木々に覆はれほの暗き谷をとうとうと行く水のあり

短歌目次